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金沢地方裁判所 昭和39年(行ウ)8号 判決

金沢市橋場町一番一二号

原告

角谷英夫

同市同町一〇番三八号

角谷芳雄

右両名訴訟代理人弁護士

荒谷昇

同市彦三町一丁目一五番五号

被告

金沢税務署長

谷口直二

右指定代理人

松沢智

笠原昭一

奥村欣三郎

南亮

鳥居三郎

右当事者間の昭和三九年(行ウ)第八号所得税額決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの平等負担とする。

事実

第一、双方の申立

(原告らの求める裁判)

一、被告の原告角谷英夫に対する昭和四〇年二月二四日付再評価税額及び無申告加算税額の各更正並びに同年三月三日付昭和三六年分所得税額更正及び過少申告加算税額決定の各処分をいずれも取消す。

二、被告の原告角谷芳雄に対する昭和四〇年二月二四日付再評価税額及び無申告加算税額の各更正並びに同年三月三日付昭和三六年分所得税額更正及び無申告加算税額決定の各処分をいずれも取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告らの求める裁判)

主文と同旨の判決

第二、請求原因事実

一、資産再評価税決定処分等

(一)  被告は、昭和三八年七月二九日、原告角谷英夫(以下単に英夫という)に対し、同人所有の別紙物件目録(イ)記載の物件(以下単に(イ)物件という)につき、昭和三六年資産再評価税(以下単に再評価税という)額を五七、七三〇円、無申告加算税額を一四、二五〇円と決定し、通知した。

(二)  また被告は、右同日、原告角谷芳雄(以下単に芳雄という)に対し、同人所有の別紙物件目録(ロ)記載の物件(以下単に(ロ)物件という)につき、昭和三六年分再評価税額を四二、八五〇円、無申告加算税額を一〇、五〇〇円と決定し、通知した。

二、再評価税更正処分等

(一)  被告は、昭和四〇年二月二四日、原告英夫に対し、前記再評価税額を五七、八八〇円と更正し、無申告加算税額を一四、二五〇円と決定し、各通知した。

(二)  また被告は、右同日、原告芳雄に対し、前記再評価税額を二二、九三〇円と更正し、無申告加算税額を五、五〇〇円と決定し、各通知した。

三、所得税更正、決定処分等

(一)  被告は、昭和三八年八月六日、原告英夫に対し、同人の昭和三六年分所得税の申告について(イ)物件の譲渡所得の申告もれがあつたとして、所得税額を五二三、四九〇円と更正し、過少申告加算税額を二六、〇五〇円と決定し、各通知した。

(二)  また被告は、同年同月二二日、原告芳雄に対し、同人の昭和三六年分所得税につき、(ロ)物件及び別紙物件目録(ハ)記載の物件(以下単に(ハ)物件という)の譲渡による所得があるにもかかわらず、法定期限までにその申告をしなかつたとして、所得税額を八九七、九〇〇円、無申告加算税額を二二四、二五〇円とする賦課決定をなし、各通知した。

四、所得税再更正処分等

(一)  被告は、昭和四〇年三月三日、原告英夫に対し、前記更正、決定に誤りがあつたとして、さらに同人の所得税額を四五七、一三〇円に更正し、過少申告加算税額を二二、七五〇円と決定し、各通知した。

(二)  また被告は、右同日、原告芳雄に対し、前記決定に誤りがあつたとして、さらに所得税額を六八七、四六五円と更正し、無申告加算税額を一七一、七五〇円と決定し、各通知した。

五、不服申立

原告らは、前記一及び三の各処分を不服として、被告に対し再調査請求をしたが、被告はいずれも棄却の決定をしたので、原告らは、さらに金沢国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長はいずれも棄却の裁決をし、右裁決の通知は、昭和三九年七月九日、原告らに到達した。

よつて、原告らは、右一及び三の各処分の取消を求めて訴を提起したが、被告はその後に前記二及び四の各処分をしたので、訴を変更し、二及び四の各処分の取消を求めるものである。

六、違法性

ところで、被告のした右二及び四の各処分は次の理由により違法である。

即ち、被告は、原告らが昭和三六年中に原告英夫所有の(イ)物件と原告芳雄所有の(ロ)物件とを交換したこと、及び原告芳雄が(ハ)物件を他に売却したことを認定して、右各処分をしたのであるが、

(一)  右物件の交換は、昭和三六年ではなく、昭和二〇年一二月二八日になされたものであり、即時、その占有を互いに移転したものである。

(二)  仮りに、右交換の時期が昭和三六年中であるとしても、被告の(イ)、(ロ)各物件の評価は過大で失当である。

(三)  また、原告芳雄が(ハ)物件を他へ売却したことはあるが、これは買い受け価額より低価で売却したものであるから、所得の発生はなかつたものである。

七、よつて、前記のとおりの裁判を求める。

第三、請求原因に対する答弁

一、請求原因第一、第二及び第五項の事実はいずれも認める。

二、同第三、第四項の事実中、各(二)の原告芳雄の所得税額の認定については、主張の物件のほかに別紙物件目録(ニ)記載の物件(以下単に(ニ)物件という)の譲渡を含むものであり、その余の事実はすべて認める。

三、同第六項の事実中、被告が原告らの交換の時期を昭和三六年中と認定したこと、また原告芳雄の(ハ)物件の売却が同年中になされたと認定したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第四、抗弁事実

一、課税原因

(一)  原告英夫は(イ)物件を、原告芳雄は(ロ)物件をいずれも昭和二〇年以前より所有してきたものであるが、両名は、昭和三六年二月二四日、右各所有物件を互いに交換する旨の契約を締結した。

仮りに、右の主張が認められないとしても、被告は、原告らが、右同日、右物件について不動産交換契約公正証書を作成し、かつ、これを登記原因として翌二五日にそれぞれ所有権移転登記を経ていること、また被告が、原告英夫に対し昭和三〇年分所得税について照会をした際、同人は(ロ)物件は原告芳雄より賃借している旨書面で回答している事実などの客観的資料に基づいて、昭和三六年二月二四日に税法上の譲渡があつたと認定したものである。

(二)  また、原告芳雄はも(ハ)物件並びに(ニ)物件を所有していたが、昭和三六年九月五日、これらを訴外津田信雄に売却した。

(三)  したがつて、右(一)については昭和三六年二月二四日に、右(二)については同年九月五日に、いずれも所得税法(昭和三六年当時のものを指す。以下同じ)九条一項八号にいわゆる譲渡があつたものである。

二、再評価税について

(一)  右のとおり、原告英夫は(イ)物件を、原告芳雄は(ロ)物件をいずれも資産再評価法(昭和三六年当時のものを指す。以下同じ。なお以下単に再評価法という)三条の基準日、即ち、昭和二八年一月一日において所有し、かつ、右基準日以後昭和三六年一二月三一日までの間である同年二月二四日にそれぞれの物件を譲渡したのであるから、同法八条(家屋)九条(土地)により、基準日現在において再評価が行なわれたものとみなし、同法四二条三項、三七条、四四条により原告英夫について再評価額は一、四三一、一八〇円、再評価差額は一、一一四、八四九円、再評価税額は五七、八八〇円に、また原告芳雄については再評価額は六七〇、〇二〇円、再評価差額は五三二、三五〇円、再評価税額は二二、九三〇円にそれぞれ算出される。

但し、原告芳雄につき、(ロ)物件の家屋七六・二坪は事業用たる公衆浴場(木造及び煉瓦造五九・七坪)のほかに居住用木造建物が併設されているが、同人方には本件係争年当時住み込み及び通勤の雇人四名がおり、いずれも公衆浴場営業に従事していたから、右居住用木造建物のうち右雇人らの使用する建物部分については公衆浴場経営のための事業用として認めるのが相当であるので、同人らの専用及び共用部分を事業用住居部分として六・五坪とし、その余の非事業用住宅部分一〇坪と区分し認定計算すべきである。すると、右家屋全体については、減価償却率〇・〇三七、耐用年数二七年となるのである(別紙計算表Aのとおり)。

また、原告両名は、右譲渡があつたにもかかわらず、その申告期限である昭和三七年三月一五日(同法四七条一項)内に申告せず、かつ正当事由なく右期限を三月以上徒過したから、同法八〇条により、無申告加算税額は原告英夫について一四、二五〇円、原告芳雄について五、五〇〇円となる。

これら計算関係は別紙計算表Bに示すとおりである。

三、所得税について

(一)  原告英夫分

(1) 申告にかかる昭和三六年分の浴場営業による営業所得は四二二、七一二円であり、車輛の譲渡損失は一六九、二八五円である。

(2) 一方、申告のなかつた譲渡所得の課税標準は次のとおりである。即ち、同人は(イ)物件を(ロ)物件の時価で譲渡したことに帰するが、(ロ)物件の時価は別紙計算表Cに示すとおり四、七八七、八七五円となり、また資産の譲渡による収入金額から控除される(イ)物件の取得価額とは資産再評価の残存価額一、一六二、一九五円にほかならないから、結局同人は差し引き三、六二五、六八〇円の所得があつたことになる。これより特別控除額一五〇、〇〇〇円及び右申告にかかる譲渡損失額一六九、二八五円を差し引いた残額三、三〇六、三九五円の一〇分の五、即ち、一、六五三、一九七円が課税標準である。

(3) したがつて、昭和三六年分所得は、営業所得四二二、七一二円と譲渡所得一、六五三、一九七円との合計二、〇七五、九〇九円となるが、基礎控除額九〇、〇〇〇円、社会保険料控除額二一、五四四円、生命保険料控除額二二、五〇〇円、扶養控除額一〇〇、〇〇〇円を差し引くことにより、課税総所得は一、八四一、八〇〇円となり、所得税額は更正額のとおりとなる。

(4) また、同人は右譲渡所得がありながらこれを申告せず、かつ申告のないことについて正当な事由がないから、過少申告加算税として、右所得税額と納付にかかる税額一、九〇〇円との差額四五五、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金二二、七五〇円の納付義務を負う。

(二)  原告芳雄分

(1) 同人は、前記交換については、(ロ)物件を(イ)物件の時価で譲渡したことに帰するが、(イ)物件の時価は別紙計算表Dに示すとおり、八、五〇五、一〇〇円となり、また資産の譲渡による収入金額から控除される(ロ)物件の取得価額は、前記(ロ)物件に対する資産再評価の残存価額五五四、〇九五円及び設備の残存価額二、五二七、一七五円の合計額三、〇八一、二七〇円がこれにあたるから、差し引き所得金額は五、四二三、八三〇円となる。

(2) また、同人は、(ハ)物件並びに(ニ)物件を一、三〇〇、〇〇〇円で売却したが、右物件の取得価額は一、三九四、〇〇〇円であるから、結局、右売却により九四、〇〇〇円の譲渡損失を生じたことになる。

(3) よつて、(1)の差し引き所得金額五、四二三、八三〇円から(2)の譲渡損失九四、〇〇〇円及び特別控除額一五〇、〇〇〇円を差し引いた残額五、一七九、八三〇円の一〇分の五、即ち、二、五八九、九一五円が譲渡所得の課税標準である。

したがつて、昭和三六年中に、他に所得がなかつたから、同年中の所得税額は更正額のとおりとなる。

(4) また、同人は、右の譲渡所得がありながら、法定申告期限である昭和三七年三月一五日を正当な事由なく無申告のまま三月以上徒過したから、無申告加算税として右所得税額(一、〇〇〇円未満切捨)に一〇〇分の二五を乗じて算出した一七一、七五〇円の納付義務を負う。

四、以上のとおり、被告がなした本件課税処分はいずれも正当であつて、原告らの本訴請求は失当である。

第五、抗弁に対する認否

抗弁事実中、資産再評価税につき原告両名が、また所得税につき原告芳雄がいずれも法定申告期限を三月以上徒過したこと、(ロ)物件の家屋の耐用年数算出の基礎になる事業用、非事業用の区分に関する事実がいずれも主張のとおりであること、(ロ)物件の家屋の設備に関する事実が、計算表Cのとおりであること、また原告英夫の所得税算出につき、基礎控除、社会保険料控除、生命保険料控除が、原告芳雄については基礎控除が、いずれも被告主張の金額のとおりであることは認め、その余の事実は争う。

第六、証拠関係

一、原告両名代理人は、甲第一号証の一、二、第二号証の一ないし六、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし五、第六号証の一、二、第七号証の一、二、第八ないし第一一号証、第一二号証の一ないし一九を提出し、証人角谷美代次、飯田他家治の各証言を援用し、原告角谷英夫、角谷芳雄各本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立はいずれも認める、と述べた。

二、被告代理人は、乙第一、二号証、第三号証の一ないし四、第四ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし四、第一一、一二号証を提出し、証人岩佐隆顕、山田孝、春本正一、馬場毅の各証言を援用し、甲第三号証の一及び三、第四号証、第五号証の一ないし五、第一一号証、第一二号証の一ないし一九の各成立は不知、第三号証の二については郵便官署作成部分の成立のみを認め、その余は不知、その他の甲号各証の成立はいずれも認める、と述べた。

理由

一、当事者間に争いのない事実

請求要因第一項(再評価税決定処分等)、第二項(同更正処分等)の各事実、及び第三項(所得税更正、決定処分等)、第四項(同再更正処分等)のうち原告芳雄の所得税認定につき(ニ)物件の譲渡を含むか否かを除くその余の事実については当事者間に争いがない。

また、抗弁事実のうち、再評価税について原告両名が、所得税について原告芳雄が、いずれも無申告のまま法定期限を三月以上徒過したこと、(ロ)物件の家屋の耐用年数算出の基礎となる使用区分に関する事実が被告主張のとおりであること、また同家屋の設備に関する事実が計算表C記載のとおりであること、及び各所得税について各控除額が被告主張のとおりであることについても当事者間に争いがない。

二、交換の時期について

そこで、まず、原告両名間において(イ)物件と(ロ)物件との交換が何時なされたものであるかについて判断する。

証人角谷美代次の証言、原告両名の各本人尋問の結果及び成立に争いのない乙第九号証の一ないし四を総合すると、次の事実が認められる。

即ち、原告両名は実の兄弟の間柄にあるところ、原告英夫は昭和一七年一二月二八日頃に(イ)物件につき、また原告芳雄は昭和一九年一二月二五日頃に(ロ)物件につきいずれも所有権を取得したものであるが、終戦後の昭和二〇年一二月末頃に(イ)物件所在地において親族数名が原告英夫の復員祝をなした席上、同人と原告芳雄との間に(イ)物件と(ロ)物件との「交換」の話合が行なわれ、その頃より原告英夫は現在に至るまで(ロ)物件において公衆浴場業を経営し、また原告芳雄は昭和二八年頃に至るまで(イ)物件において旅館兼料理屋業を経営してきたものである。

そこで、右にいわゆる「交換」の話合が、所有権の完全な移転を伴うところの法律上の交換の約束を意味するかどうかについて判断することとする。

前述のとおり(ロ)物件については被告主張の内訳表のとおりの設備が施されていることは当事者間に争いがなく、また証人角谷美代次の証言、原告英夫本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したと認められる甲第五号証の一ないし五、及び同様に真正に成立したと認められる第一二号証の一ないし一九の各書証によれば、右設備費用並びに前記「交換」の話合以来の(ロ)物件の修繕についての費用は、すべて原告英夫において支出してきたことが認められ、また原告両名の各本人尋問の結果によれば、原告らは相互に賃料の授受をしていなかつたことが認められる(この点につき成立に争いのない乙第五号証によれば、原告英夫は昭和三〇年分所得税について金沢税務署に対し(ロ)物件の家賃及び地代として原告芳雄に月額一万円の支払いをなしている旨申述していることが認められるが、原告英夫本人の尋問結果によれば、右申述は同人が税の軽減を企図してなした虚偽の申告であることが明らかである)。

しかし、一方、右話合は前示のとおり原告英夫の復員祝の席上におけるあくまでも口頭の話合に終つていること、さらに原告ら各本人尋問の結果並びに前出乙第九号証の一ないし四、の各証拠を総合すると、原告らは右話合の後においても、本件(イ)、(ロ)各物件の登記簿上の所有名義を相互に移転することもなく、従来のとおり原告英夫において(イ)物件につき、原告芳雄において(ロ)物件につき各所有名義を保持したまま昭和三六年二月二四日に至つたこと、また公租公課についても同様に従来どおり、それぞれの所有名義に従いこれを負担納付し、この点につき特に問題としたこともなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、右各証拠並びに成立に争いのない乙第一号証によれば、昭和三六年に至り、偶々原告両名は本件二物件の所有名義を変更する必要に迫られ、前述昭和三六年二月二四日金沢地方法務局所属公証人名越快治の役場において、これを互いに交換する旨の不動産交換契約公正証書を作成し、翌二五日、その旨の登記を経たことが認められ、これに反する証拠はない。

右の諸事情を総合して勘案すれば、原告ら主張の昭和二〇年一二月末頃の「交換」の話合は、単に兄弟間における本件二物件の使用関係の交換を意味したものにすぎず、これを超える所有関係についての清算は将来のこととして残されていたものとみるのが相当であり、昭和三六年二月二四日の公正証書による交換契約の時点に至つてはじめて相互の所有権の移転を伴つた法律上にいわゆる交換契約が成立したものとみるのが相当である。甲第六号証の一、乙第二号証の各記載内容並びに証人角谷美代次の証言、原告ら各本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分はいずれも採用の限りでなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

よつて、交換の時期に関する被告の主張は正当であつて、原告らが主張するごとき違法は存しない。

三、再評価税について、

(一)  法的根拠

再評価税は、再評価法三六条の規定「再評価を行つた者又は再評価が行われたものとみなされた資産を基準日(昭和二八年一月一日―同法三条)において有していた者は、この法律により再評価税を納める義務がある。」により納付義務が認められるのである。

ところで、同法八条二項によれば、右基準日において同法の施行地(金沢市を含む―一二三条)に有する減価償却資産のうち家屋について、基準日以後に譲渡等があつた場合は、その家屋については基準日現在において二六条に規定する再評価額により再評価が行われたものとみなされ、また同法九条によれば同様に土地あるいは事業の用に供していない家屋についても二一条二項又は二五条の再評価が行われたものとみなされる。

そして、再評価税は、同法三七条一項、四四条により個人については四二条に規定する再評価差額に一〇〇分の六の割合によつて課されることとなるが、八条二項又は九条により再評価が行われたものとみなされる場合には、三七条二項により再評価差額から一五〇、〇〇〇円を控除した額とされる(右資産が二以上ある場合も同一人の控除の合計額が一五〇、〇〇〇円にすぎないこと同条項括弧内。)

右にいわゆる再評価額は、同法四二条三項により、八条二項による場合も、九条による場合も、ともに(1)当該資産の再評価額から、(2)四二条一項各号に掲げる金額を控除した金額とし、ただし、(3)所得税法一〇条の五に規定する資産、即ち、家屋等の使用又は保存による減もう等により減価するものについては、当該金額から基準日以降譲渡等があつた日までの期間に応じて、大蔵省令で定めるところにより計算した償却額又は減価の価額を控除した金額とされている。そこで、右(1)、(2)、(3)の各算出の根拠規定をみることにする。

(1)  再評価額

再評価法二一条二項によれば、個人の有する土地の再評価額は、財産税調査時期前に取得したものについては、その財産税評価額を四〇倍した額である。

また、同法二五条一項によれば、個人の有する家屋で事業の用に供しないものの再評価額は、当該家屋の取得価額にその取得の時期及び耐用年数に応じて定められた同法別表第一の倍数を乗じて算出した金額とし、そして、財産税調査時期前に取得したものについては、その財産税評価額をその取得価額とみなし、財産税調査時期をその取得の時期とみなされる。

さらに、同法二六条によれば、個人の有する家屋でその事業の用に供しているものについて譲渡等があつた場合における八条二項の規定により行われたものとみなされた再評価の再評価額は二五条一項に準じて計算した金額とされるのである(ただし、一七条の制限がある)。

(Ⅰ) 右において財産税評価額とは、財産税法二五条によれば、その財産の賃貸価格〔家屋の賃貸価格は旧家屋税法(昭和一五年七月法律第一〇八号)六条に規定する賃貸価格を指し、土地の賃貸価格は旧地租法(昭和六年三月法律第二八号)八条に規定する賃貸価格を指す〕に一定の倍数を乗じて算出した金額とされている。そして、同法二六条によれば、右の一定の倍数は、命令で定める区域ごとに、その区域内において標準となるべき土地又は家屋について、取引価額を参酌して、政府において算定する価額の、その調査時期における賃貸価格に対する倍数に比準して、これを定めるのであるが、同法施行規則により、当該土地もしくは家屋の所在地の所轄財務局長(現在は国税局長)において定めるものとされている。

(Ⅱ) 次に耐用年数とは、再評価法一七条一項括弧内規定によれば、所得税法の規定により再評価日において定められている耐用年数をいうと規定されているところ、所得税法一〇条の三は、固定資産の減価償却の計算については命令で定める方法による旨定めており、同規定及び同法施行規則一〇条三項に基づく大蔵省令、即ち、「固定資産の耐用年数等に関する省令」一条は固定資産の耐用年数は同省令別表Ⅰ以下に定めるところによる旨規定している。

(Ⅲ) また、財産税調査時期とは、財産税法一条によれば、昭和二一年三月三日午前零時である。

(2)  再評価法四二条一項各号に掲げる金額

同条項一号によれば、財産税調査時期前に取得した資産については、当該資産の財産税評価額から財産税調査時期後再評価日までの期間に応じて所得税法の規定による所得の金額の計算上必要経費に算入される償却額の累計額を控除した金額である(なお、九条による再評価の場合は、右の償却額は減価の価額と読み替える―同条三項)。そして、具体的な計算の方法は命令で定めるところによる(所得税法一〇条の三)。

(3)  基準日以後譲渡の日までの償却額又は減価額

再評価法施行規則二条及び同条項引用の所得税法施行規則の各条項による。

(二)  本件の再評価についての判断

(1)  納税義務の発生

本件(イ)、(ロ)物件がいずれも金沢市内にあることは、当事者間に争いがなく、また原告両名において昭和三六年二月二四日に右二物件の交換をなしたこと前示のとおりであり、しかも、右交換が再評価法八条二項、九条にいわゆる「譲渡」に含まれること、その性質上明らかであり、さらに原告英夫は(イ)物件を、原告芳雄は(ロ)物件をいずれも基準日である昭和二八年一月一日に所有していたことは前示の経過により明らかであるから、原告らはいずれも再評価税を納付すべき義務がある。

(2)  再評価税額

(Ⅰ) まず、再評価額は、土地については再評価法二一条二項によつて算出し、また家屋については事業の用に供していると否とをとわず同法二五条一項の規定により、またはこれに準じて算出することは前にみたとおりであり、しかも、原告両名は(イ)物件あるいは(ロ)物件を財産税調査時期である昭和二一年三月三日午前零時以前にそれぞれ取得したこともすでにみたとおりである。そして、財産税調査時期における各物件の賃貸価格は証人馬場毅の証言並びに成立に争いのない乙第九号証の一ないし四によれば、(イ)物件の土地二二一円四銭、家屋九四二円、(ロ)物件の土地一二一円八六銭、家屋四〇六円であることが認められる。また、同証言並びに成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし四によれば、財務局長の定めた財産税評価倍数は(イ)、(ロ)物件とも土地五〇、家屋七五であることが認められる。もちろん、この評価倍数は恣意的であつてはならないが、本件においては特に不合理であることを窺わせる事情もないから、これを採用しても何ら不都合は生じない。そうすると、(イ)、(ロ)各物件の土地、家屋の財産税評価額が、それぞれ、別紙計算表B注(2)のとおり算出される。

そして、再評価額は、前示のとおり、右財産税評価額に、土地については四〇を、家屋については再評価法別表第一の倍数を乗じて算出するが、(イ)物件の家屋は、木造であること当事者間に争いがなく、原告芳雄本人尋問の結果によれば旅館兼料理屋業の用に供せられていることが認められるから、前出の固定資産の耐用年数等に関する省令別表Ⅰによつて、その耐用年数は二七年となり、したがつて、この耐用年数と取得時期とされる昭和二一年三月三日を要素として再評価法別表第一によると、再評価倍数は一四となる。また、(ロ)物件の家屋の使用区分については当事者間に争いがなく、成立に争いない乙第一二号証によれば、賃貸価格は木造部分二九五円、煉瓦造部分一一一円であることが認められ、これらの事実によれば、別紙計算表Aに示すとおり、その減価償却率から逆算して、右家屋の耐用年数は二七年となることが認められ(税務の大量的かつ集中的処理の必要上、かような耐用年数の平均値による処理の方法も、特に不合理な事情が存しない以上何ら違法とはいえない)、この耐用年数と取得時期とされる昭和二一年三月三日を要素として別表第一によれば、再評価倍数は同様に一四となる。したがつて、これらの数字をもとに各物件の再評価額を求めると、別紙計算表B注(2)に示すとおり、(イ)物件一、四三一、一八〇円、(ロ)物件六七〇、〇二〇円となる。

(Ⅱ) また再評価法四二条一項一号に掲げる金額、即ち、財産税評価額から財産税調査時期後再評価日までの期間に応じて所得税法の規定による所得の計算上必要な経費に算入される償却額の累計額は前出乙第六号証及び成立に争いない乙第七号証によれば、(イ)物件の家屋三四、三五六円、(ロ)物件の家屋一四、七九八円であることが認められる(土地については減価は存しないから、控除を要しない)。したがつて、各物件の取得価額は別紙計算表B注(1)に示すとおり(イ)物件四七、三四六円、(ロ)物件二一、六四五円となる。

(Ⅲ) さらに基準日以後譲渡の日までの償却額は、前出乙第六号証及び証人馬場毅の証言によれば、(イ)物件の家屋二六八、九八五円、(ロ)物件の家屋一一五、九二五円となる。

(IIII) したがつて、再評価差額は(イ)物件一、一一四、八四九円、(ロ)物件五三二、三五〇円となり、特別控除額各一五〇、〇〇〇円を控除し、それぞれ九六四、八四九円、三八二、三五〇円が課税再評価差額となる。これに前述一〇〇分の六の税率を適用すれば、原告英夫は五七、八九〇円、原告芳雄は二二、九四一円の各再評価税納税義務を負うところ、被告は、その範囲内でそれぞれ五七、八八〇円、二二、九三〇円と認定したものであつて、何らの違法も認められない。

四、再評価税の無申告加算税について

再評価法四七条一項によれば、本件のように八条二項又は九条の規定により再評価が行われたものとみなされた資産については、その譲渡等をなした日の属する年の翌年の二月一六日から三月一五日までに所轄税務署長に申告書を提出しなければならないとされているから、原告両名の右申告期限は昭和三七年三月一五日であることは前述の事実関係から明らかであるところ、原告らが右申告期限を徒過したことは当事者間に争いがない。そして、被告は同法六六条により、昭和三八年七月二九日、原告両名に対し再評価税額等の決定をなし、さらに六七条により、昭和四〇年二月二四日、原告英夫の再評価税額を五七、八八〇円、原告芳雄のそれを二二、九三〇円とそれぞれ再更正し、六九条により各通知をしたことは前にみたとおりである(右再評価税額は追徴税額と呼ばれる―七一条一項)、ところが、八〇条本文並びに四号によれば、税務署長は、前記申告書の提出がなかつたことについて正当な事がないと認めるときは、更正にかかる追徴税額について四七条に規定する申告書の提出期限の翌日からその更正にかかる六九条の規定による通知をした日までの期間が三月をこえるときは、一〇〇分の二五を乗じて得た金額に相当する無申告加算税を徴収することとされているが、本件において、右申告期限の翌日から再更正通知の日までの期間が三月をこえることは明らかであり、かつ、申告しなかつたことについて正当の事由が存したことを窺うに足りる事情はない。

したがつて、端数計算につき同法(現行)八二条の二の二項国税通則法九一条三、四項により、原告英夫については一四、四七〇円、原告芳雄については五、七三〇円となるところ、被告はその範囲内で、それぞれ一四、二五〇円、五、五〇〇円と認定したものであるから、この点でも何ら違法はない。

五、所得税について

(一)  法的根拠

所得税法九条一項によれば、所得税の課税標準は、同項各号の規定により計算した金額の合計(総所得金額)によるとされているところ、同項本文並びに八号によれば、資産の譲渡による所得は、その年中の総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除した金額であり、これより一五〇、〇〇〇円を控除した金額の一〇分の五を総所得金額に組み入れられることとなる。ここに、総収入金額とは、同法一〇条一項により、その収入すべき金額の合計額によるとされ、また一〇条の四の二項によれば、本件のごとく資産再評価法の規定により再評価を行つたものとみなされたものについては、取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費は、当該資産の再評価額と、昭和二七年一二月三一日後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費の額との合計額とされるところ、右の再評価額は、一〇条の五により、昭和二八年一月一日以後の減価額を控除した残存価額をもつてこれに置き替えられる。そして、右減価の方法は同法施行規則一二条の一五、一六による。

(二)  譲渡の事実

前示のとおり、原告両名は、昭和三六年二月二四日、(イ)、(ロ)各物件の交換をしたものであるが、この交換が所得税法九条一項八号の「譲渡」にあたることはいうまでもないから、原告英夫は(ロ)物件を対価として(イ)物件を譲渡し、原告芳雄は(イ)物件を対価として(ロ)物件を譲渡したものというべきである。そして、右(ロ)物件には被告主張のとおりの設備が存したことは前にみたとおりである。

また、成立に争いのない甲第一号証の一、第二号証の二ないし六によれば、原告芳雄は、昭和三六年九月五日、(ハ)物件を訴外津田信雄に売却したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

つぎに、原告芳雄が、右(ハ)物件とあわせて(ニ)物件をも売却したか否かについてみるに、この点につき原告芳雄は、「その土地を買うとき物置らしいものがありましたが、これを取毀してしまいました。」と供述するが、その取毀しの時期が明確でないばかりでなく、成立に争いのない乙第一一号証(閉鎖登記簿謄本)によれば、右物件は(ハ)物件の上にあり、これと同じ日の売買を原因として原告芳雄から津田信雄に所有権が移転した旨登記されており、その後昭和三六年一〇月二〇日に至り、同月二日滅失を原因として閉鎖の登記がなされていることが認められるから、右(ニ)物件は(ハ)物件とあわせて売却されたものと認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  所得税額

(1)  (イ)、(ロ)各物件の交換による収入金額及び取得価額

証人馬場毅の証言及び成立に争いのない乙第三号証の一ないし四、第四号証、第八号証の一、二によれば、被告は(イ)、(ロ)各物件(ただし、(ロ)物件の設備を除く)のうち、土地についてはいわゆる路線価方式に従い、道路に沿つた市街地である各土地につき国税局長が毎年評価し直す坪当り路線価((イ)物件の土地は三六、〇〇〇円、(ロ)物件の土地は一一、五〇〇円)に各坪数を乗じ、また家屋については再評価税に関して前出の賃貸価格に国税局長が毎年決定する評価倍数((イ)物件の家屋につき一、五〇〇、(ロ)物件の家屋につき一、六〇〇)を乗じて、それぞれの評価額を算出し、さらに、右評価額が、一般に時価より低額であるとの理由から、家屋の時価はその評価額を一・五倍し、また土地の時価は、商業地にある(イ)物件についてはその評価額を〇・七で、住宅地にある(ロ)物件については〇・六でそれぞれ割り返して算出するという方法により、別紙計算表C及びDに示すとおり、(イ)物件の時価を八、五〇五、一〇〇円、(ロ)物件(設備除く)の時価を(土地・家屋の合計)二、二六〇、七〇〇円と算定したことが認められる。

そこで、右評価が適正かどうかについて判断する。右馬場毅の証言及び前出乙第七号証によれば、昭和三六年頃、金沢市内における一〇件の不動産売買について実例調査をしたところ、前記時価算定の基礎となつた評価額と実際の売買価額との比較は次のごとくであつたことが認められる。即ち、まず土地についてみると、右評価額の実際の売買価額に対する割合は、商業地においては最低四九パーセント、最高六四パーセントで、平均五八パーセントであり、住宅地においては最低三六パーセント、最高五三パーセントで、平均四三・四パーセントであること、したがつて評価額をそれぞれ〇・五八、〇・四三四で割り返すことによつてほぼ実際の売買価額に近い時価を得られることが認められ、また家屋についてみると、右の割合は最低三六パーセント、最高六四パーセントで、平均五〇・五パーセントであること、したがつてその評価額に五〇・五分の一〇〇、即ち約一・九八を乗じてほぼ実際の価額に近い時価を得られることが認められるのである。ところが、本件では、被告は、土地については、(イ)物件が商業地にあることは公知の事実であるところ、〇・七で割り返し、(ロ)物件が住宅地にあることもまた公知の事実であるところ、〇・六で割り返し、家屋についてはいずれも一・五を乗じて各物件の時価を出したというのであるから、実際に売買されたと仮定したばあいの価額よりもむしろ控え目に算定したものと認められる。

また、(ロ)物件の家屋については被告主張の設備が施されていること前にみたとおりであるが、原告英夫本人尋問の結果、及びこれにより成立を認めうる甲第五号証の一ないし五、第一二号証の一ないし六、同号証の一一ないし一九の各書証によれば、右設備の施設費用はいずれも原告英夫において支出したことが認められるが、右設備はその性質からみていずれも原告芳雄所有の(ロ)物件の家屋に従として附合せしめたものであることが明らかであるから、(ロ)物件の時価の評価については、この設備の時価をも加えるのが相当である。そして、被告主張の設備内訳表の取得価額、残存価額については当事間に争いないところである。

以上によれば、本件交換による原告らの収入金額は、別紙計算表C及びDの計算によつて明らかなとおり、原告英夫について八、五〇五、一〇〇円、原告芳雄について四、七八七、八七五円となる。

また、前にみたように、(イ)、(ロ)各物件の取得価額は、再評価額から再評価基準日以後の減価額を控除した残存価額をもつて置き替えられるから、(イ)物件は一、一六二、一九五円であり、(ロ)物件は設備の残存価額を含めて三、〇八一、二七〇円である。

(2)  (ハ)、(ニ)各物件の売却による収入金額及び取得価額

証人岩佐隆顕、春本正一、馬場毅の各証言によると、原告芳雄の(ハ)、(ニ)両物件の譲渡について、被告は、まず、原告芳雄の申述に基づき、同人が(ハ)物件を含む土地及び(ニ)物件を合計金一七〇万円で購入したことを認定し、また、そのうち、両物件の前述の賃貸価格に評価倍数を乗じる方法によつて得た評価額において(ニ)物件の占める割合から、(ニ)物件の価格を一三六、〇〇〇円と算定し、これを右合計額より控除した残額を購入坪数で割ることにより右購入土地の購入価格を算出し、さらに右坪当り価格に訴外津田信雄に売却した土地の坪数を乗じて、(ハ)物件の時価を一、二五八、〇〇〇円と算定し、もつて(ハ)物件と(ニ)物件との合計取得価額を一、三九四、〇〇〇円と認定したこと、他方右津田への売却価額については、前出の路線価方式に従い((ハ)物件の坪当り路線価二、〇〇〇円)、(ハ)物件全部の評価額を二、四六〇、〇〇〇円余と算定し、これに(ニ)物件の取得価額を合すると約二、六〇〇、〇〇〇円となるが、前記取得価額との比較、買主津田に対する反面調査の結果及び係争中の物件であることなどを考慮して、(ハ)、(ニ)両物件の売買価額をその二分の一の一、三〇〇、〇〇〇円と認定したことが窺われる。そして、以上の評価方法につき特に違法事由の存在を窺わせる事情も見当らない。

(3)  所得税額の算定

(Ⅰ) 原告英夫分

譲渡所得額は、(ロ)物件の時価合計四、七八七、八七五円より(イ)物件の取得価額一、一六二、一九五円、特別控除額一五〇、〇〇〇円、申告にかかる車輛の譲渡損失額一六九、二八五円を各控除した残額に一〇分の五を乗じて得られる一、六五三、一九七円であり、総所得金額に組み入れられる。

一方、同人の申告にかかる営業所得は、前出乙第六号証によれば四二二、七一二円であることが認められる。

したがつて、同人の昭和三六年分所得は合計二、〇七五、九〇九円となるが、基礎控除額九〇、〇〇〇円(所得税法一二条)、乙第六号証によつて認められる申告にかかる社会保険料控除額二一、五四四円(一一条の六)、生命保険料控除額二二、五〇〇円(一一条の七)、扶養控除額一〇〇、〇〇〇円(一一条の九)をそれぞれ差し引くと(二八条)、結局同人の昭和三六年分課税総所得は一、八四一、八〇〇円(但し、一〇〇円未満の端数切捨―国税通則法九〇条一項)となり、これに同法一三条の税率を適用すれば、所得税額は四五七、一三〇円となる。

(Ⅱ) 原告芳雄分

譲渡所得額は、(イ)物件の時価八、五〇五、一〇〇円と、(ニ)、(ハ)両物件の売却価格一、三〇〇、〇〇〇円との合計九、八〇五、一〇〇円より、(ロ)物件の取得価額三、〇八一、二七〇円と(ハ)、(ニ)両物件の取得価額一、三九四、〇〇〇円との合計四、四七五、二七〇円、及び特別控除額一五〇、〇〇〇円をそれぞれ差し引き、その残額五、一七九、八三〇円に一〇分の五を乗じて得た金額二、五八九、九一五円となる(これによれば、(ハ)、(ニ)両物件の売却によつて九四、〇〇〇円の譲渡損失を認めることとなるから、この点について所得の発生を認定したとする原告の主張が失当であることは明らかである)。これより、基礎控除額九〇、〇〇〇円を控除すると、同人の昭和三六年分課税総所得は二、四九九、九〇〇円(一〇〇円未満切捨)となり、これに所得税法一三条の税率を適用すれば、所得税額は六八七、四六五円となる。

以上によれば、被告の所得税額についての認定は相当であつて何らの違法も認められない。

六、所得税の過少申告及び無申告加算税について

所得税法五六条一項によれば、確定申告書の提出期限内にその提出があつた場合において、四四条六項の更正があつたときは、政府は当該更正にかかる四七条一項の規定による追徴税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を徴収するとされ、また同条三項本文並びに四号によれば、四四条四項の規定による決定があつた場合において、同条六項の規定による更正があり、しかも確定申告書の提出がなかつたことについて正当な理由がないと認めるときは、政府は当該更正にかかる四七条一項の規定による追徴税額について、確定申告書の提出期限の翌日から当該更正にかかる四四条七項の規定による通知をなした日までの期間が三月をこえるときは一〇〇分の二五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税額を徴収するとされている。ここに四七条一項にいう追徴税額とは、更正又は決定により増加した所得税額を指す(四七条二項)。

(1)  原告英夫の過少申告加算税

さきにみたように、同人の昭和三六年分所得税額は四五七、一三〇円であるところ、前出乙第六号証によれば、同人の既に納付した所得税額は一、九〇〇円であることが認められるから、これを差し引いた残額(ただし、一、〇〇〇円未満切捨―所得税法五六条六項)に一〇〇分の五を乗じて得た二二、七五〇円が過少申告加算税額となる。

(2)  原告芳雄の無申告加算税

原告芳雄が確定申告期限までに所得税の申告をしなかつたことについては当事者間に争いがなく、また期限の翌日から再更正処分の通知がなされるまで三月以上経過していることは前述の事実関係から明らかであり、かつ、右申告をしなかつたことについて正当の事由が存したことを窺うに足りる事情は存しないから、前記所得税額(ただし、一、〇〇〇円未満切捨)に一〇〇分の二五を乗じて得た一七一、七五〇円が無申告加算税額となる。

以上によれば、過少申告及び無申告加算税額についても被告の認定は相当であつて何らの違法も存しないこと明らかである。

七、よつて、被告の本件課税処分はいずれも正当であつて、原告の主張は理由がないことに帰するから、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用は民事訴訟法八九条、九三条一項により原告らの平等負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 至勢忠一 裁判官 北沢和範 裁判官 石垣君雄)

物件目録

(イ) 金沢市並木町五八番地

一、宅地 一二二坪八合

同番地 家屋番号第五六番

一、木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 九三坪七合

二階 七五坪七合

附属

一、木造板葺平家建物置

床面積 四坪

(ロ) 同市味噌蔵町下中丁八〇番地

一、宅地 六七坪七合

同番地 家屋番号第八七番

一、木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 三九坪七合

二階 一六坪五合

附属

一、煉瓦造瓦葺平家建浴室

床面積 二〇坪

(ハ) 同市御歩町二番丁一三番地の一

一、宅地 一二三坪一合八勺

(ニ) 右同所

一、物置

床面積 二六坪

計算表A

(ロ) 物件の家屋の耐用年数について

本件家屋の賃貸価格は406円であり、そのうち木造部分56.2坪で賃貸価格は295円、また煉瓦造部分20坪で賃貸価格は111円である。

そこで、木造部分につき各使用区分について坪数に応じて右295円の賃貸価格を按分し、各区分ごとの賃貸価格を出し、それぞれが建物全体の賃貸価格406円に対して占める割合にそれぞれの部分の耐用年数に応ずる減価償却率を乗ずると各区分の建物全体において占める減価償却率の割合が求められる。

これらを合計すると、減価償却率は0.037となり耐用年数27年の減価償却率と同率となる。

〈省略〉

計算表B 再評価税額等について

〈省略〉

注 (1) 取得価額

英夫分=(土地)11,052+(家屋)70,650-(昭和21年3月3日以降昭和36年2月24日までの家屋の減価)34,356=47,346

芳雄分=(土地)6,093+(家屋)30,450-(同上の減価)14,798=21,745

注 (2) 再評価額

英夫分

〈省略〉

芳雄分

〈省略〉

計算表C

(ロ) 物件の時価について

(1) 土地

坪当り時価=(路線価)11,500÷0.6=19,000

時価合計=(坪当り時価)19,000×(面積)67.70=1,286,300

(2) 家屋

相続税評価額=(賃貸価額)406×(倍数)1,600=649,600

時価=(相続税評価額)649,600×1.5=974,400

(3) 家屋の設備

〈省略〉

(4) よつて(ロ)物件の時価合計は4,787,875円となる。

計算表D

(イ) 物件の時価について

(1) 土地

坪当り時価=(路線価)36,000÷0.7=52,000

時価合計=(坪当り時価)52,000×(面積)122.8=6,385,600

(2) 家屋

相続税評価額=(賃貸価額)942×(倍数)1,500=1,413,000

時価=(相続税評価額)1,413,000×1.5=2,119,500

(3) よつて、(イ)物件の時価合計は8,505,100円となる。

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